宮口 幸治 (著)
ケーキの切れない非行少年たち:彼らは何故罪を犯すのか?その背景と社会との関わり
「ケーキの切れない非行少年たち」。衝撃的なタイトルのこの本は、児童精神科医である宮口幸治先生によって書かれ、2019年の発売以来、大きな反響を呼んでいます。
本書は、少年院に収容された非行少年たちが、実は**「ケーキを三等分する」という一見単純な課題をこなすことができないという事実を突きつけます。そして、その背景には、発達障害や学習障害**、知的障害といった**「見えない障害」**を抱えているケースが多いことを指摘しています。
この記事では、「ケーキの切れない非行少年たち」の内容を詳しく解説し、彼らがなぜ罪を犯してしまうのか、その背景にある問題、そして社会全体でどのように彼らと向き合っていくべきなのかを考えていきます。
「ケーキの切れない非行少年たち」とは?
「ケーキの切れない非行少年たち」は、宮口先生が長年、医療少年院で勤務する中で出会った少年たちの事例をもとに、彼らが抱える困難と、その支援の必要性を訴えた書籍です。
本書で取り上げられている少年たちは、一見すると普通の少年と変わりません。しかし、実際には**「境界知能」**と呼ばれる、知的障害と健常の境界領域にある状態にあることが多く、日常生活や学習において様々な困難を抱えています。
例えば、
- 指示されたことを理解できない
- 状況を把握することが難しい
- 感情のコントロールが苦手
- コミュニケーションがうまく取れない
といった特徴が見られます。
これらの困難が、学校生活でのトラブルや、友人関係の構築の難しさ、そして非行行為へとつながってしまうケースも少なくありません。
なぜ彼らはケーキを切れないのか?
本書のタイトルにもなっている「ケーキを切れない」というのは、比喩的な表現です。
ここでいう「ケーキ」とは、社会のルールや常識、複雑な状況などを指しています。境界知能の少年たちは、これらの「ケーキ」を理解し、適切に処理することが難しいのです。
例えば、ケーキを三等分するには、
- 全体を見渡し、三等分するにはどうすれば良いか考える
- 目分量で切り込みを入れ、調整する
- 必要があれば、切り取った部分を移動させる
といった手順が必要です。
しかし、境界知能の少年たちは、
- 全体を把握することが難しい
- 目分量で調整することが難しい
- 試行錯誤することが難しい
といった困難を抱えているため、この作業をスムーズに行うことができません。
これは、ケーキを切るという具体的な行為だけでなく、日常生活の様々な場面で起こり得ることです。
彼らはなぜ罪を犯してしまうのか?
境界知能の少年たちは、自分の特性を理解しておらず、周囲からも理解されないまま、様々な困難に直面します。
学校では授業についていけず、友達とのコミュニケーションもうまくいかず、孤立してしまうことも少なくありません。
そして、自己肯定感が低くなり、**「自分はダメな人間だ」**と思い込んでしまう傾向があります。
このような状況下で、彼らは**「認められたい」「居場所が欲しい」**という強い欲求を抱きます。
しかし、その欲求を満たす方法を知らず、誤った行動に走ってしまうことがあります。
例えば、
- 万引きをしてスリルを味わう
- 暴力で相手を支配しようとする
- 集団に属することで安心感を得ようとする
といった行動です。
彼らは、自分の行動がどのような結果をもたらすのか、それが他人にどのような影響を与えるのかを十分に理解することができません。
そのため、罪を犯してしまうリスクが高くなってしまうのです。
社会はどう向き合うべきか?
「ケーキの切れない非行少年たち」は、私たちに多くの課題を突きつけます。
境界知能の問題は、決して一部の少年たちだけの問題ではありません。
文部科学省の調査によると、**通常学級に在籍する児童生徒の約7%**が、学習面または行動面で著しい困難を示すとされています。
これは、一つの学級に2~3人はいる計算になります。
しかし、現実には、適切な支援を受けられていない子どもたちが多く存在します。
境界知能の子どもたちは、外見からはその特性が分かりにくいため、周囲から誤解されやすく、適切なサポートを受けられないまま、苦しんでいるケースも少なくありません。
本書は、**「境界知能」**という概念を広く知らしめ、彼らへの理解を深めるための重要な一冊となっています。
社会全体で、彼らが抱える困難を理解し、適切な支援体制を整えていくことが必要です。
具体的には、
- 早期発見・早期支援
- 個別の教育支援
- 生活スキルの指導
- 就労支援
などが挙げられます。
また、偏見や差別をなくし、彼らが安心して生活できる社会を作っていくことも重要です。
まとめ
「ケーキの切れない非行少年たち」は、私たちに、**「見えない障害」**を抱える子どもたちの存在を改めて認識させ、社会全体で彼らと向き合っていく必要性を訴える書籍です。
彼らが抱える困難を理解し、温かいまなざしでサポートしていくことが、より良い社会を作るために不可欠です。
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