孫正義 300年王国への野望(上) (日経ビジネス人文庫) 文庫 – 2024/10/26 杉本貴司 (著)

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■タイトル・著者:孫正義 300年王国への野望(上) (日経ビジネス人文庫) 文庫 – 2024/10/26 杉本貴司 (著)
■感想

孫正義の“300年王国”構想とは何か?——『300年王国への野望(上)』を読んで考えたこと

1. はじめに

「ビジョンを持て」。
この言葉を口にするリーダーは多いですが、300年先を見据えたビジョンを掲げる人物はそう多くありません。『孫正義 300年王国への野望(上)』を読んで、改めて「スケールの違い」という言葉の意味を実感しました。

本書は、ソフトバンク創業者・孫正義の人生と思想を追った評伝であり、2024年10月に日経ビジネス人文庫として文庫化されたものです。上巻では、彼の生い立ちから起業初期、そして情報革命を旗印に掲げるまでの道のりが描かれています。

読み進める中で感じたのは、「成功者の武勇伝」ではなく、「思索と挑戦の連続」であったということ。時代に先んじる感性と、その裏にある痛み、苦悩、執念。そのすべてが1冊の中に詰まっており、読み応えのある1冊でした。

2. 本書の概要

本書は、ノンフィクションライター・杉本貴司氏が20年以上にわたり取材し続けてきた孫正義の姿を、時系列に沿って丁寧に描いています。ビジネス書でありながら、まるで人物小説を読んでいるかのような臨場感があり、読者を引き込む力があります。

特に印象的なのは、著者が孫正義を「戦略家」ではなく「思想家」として捉えている点です。単なる経営のテクニックやビジネスモデルにとどまらず、孫が何を考え、何に怒り、何を信じてここまで来たのかを掘り下げています。

上巻では、彼の原点とも言える少年時代の苦悩、アメリカ留学時代の決断、そして日本に戻ってからの事業構想の模索までが描かれます。下巻ではいよいよソフトバンクの爆発的成長と、投資家・経営者としての飛躍が描かれることになりますが、上巻だけでも「孫正義とは何者か?」に対する深い洞察を得ることができます。

3. 印象に残ったエピソード・考え方

● 在日韓国人としての生い立ちと葛藤

孫正義は在日韓国人二世として福岡で生まれ育ちました。本名・安本正義。幼い頃から差別と偏見の中で生きる中、自らのルーツに悩みながらも、「自分は何者か」という問いを常に持ち続けていたといいます。

自宅は豚小屋の隣、貧しい環境で育ち、少年時代から「このままでは終われない」と強い向上心を燃やしていた姿が印象的でした。差別を逆に燃料に変え、誰よりも勉強し、誰よりも遠くを見据えた少年時代は、彼の現在に通じる原点のように感じます。

● カリフォルニア留学中の“決意”の瞬間

孫が17歳で単身アメリカ・カリフォルニアへ渡ったのも、「世界を見る」ための決断でした。言葉も文化もわからない中、自分の存在価値を見出すために“20分考えるごとに1つアイデアを出す”というルールを課し、1日あたり5〜6個のビジネスアイデアをノートに書き続けたといいます。

この「アイデアノート」こそが、後のソフトバンク帝国の種だったのです。彼が掲げた「情報革命で人々を幸せにする」というミッションは、当時から一貫しており、決して後付けではありませんでした。

● 情熱・狂気とも言える“執念”

孫の思考には、論理を超えた「信念」が宿っています。どれほど反対されようとも、自分の“確信”を曲げず、常に未来を見続ける姿は、時に狂気的にさえ映ります。しかし、その狂気こそが、大きな変化を生む原動力になるのだと感じました。

「誰も見たことがない未来」を語り、「誰も信じないこと」に投資し、「誰もやらないこと」を選ぶ。この姿勢は、すべての挑戦者にとっての示唆に富んでいます。

4. 孫正義の「300年構想」とは何か?

「私の志は300年続く企業をつくることです」
孫がこの言葉を初めて口にしたのは、ソフトバンクがまだ小さな卸売業者だった頃のことです。

なぜ300年なのか? それは、テクノロジーが進化しても「人間の本質」はそう簡単には変わらない。だからこそ、時代を超えて受け継がれる理念と仕組みを創りたい——という思想から来ています。

この構想は単なる夢物語ではなく、買収戦略、事業ポートフォリオの構築、後継者育成など、あらゆる経営の局面に一貫して流れています。短期的な利益よりも、長期的な価値創造を追求する姿勢は、現代の企業経営にも通じるものがあります。

5. 読後の感想と考察

この本を読んで強く感じたのは、「孫正義=天才経営者」ではなく、「考え抜き、行動し続けた思想家」であるということです。

彼の言動には常に「問い」があります。「なぜそれをやるのか?」「それは人類のためになるのか?」。この問いに答え続けることで、事業の意味が深まり、説得力を持つようになるのです。

また、本書を読むことで、日本社会におけるリーダー像にも疑問を持ちました。短期の成果に偏りがちな風潮の中で、孫のように「何十年、何百年後を見据える人材」が必要だと強く感じました。

6. まとめ

『300年王国への野望(上)』は、単なる経営者の伝記ではありません。
それは、「どう生きるか」を問う思想書であり、未来を創る覚悟を求められる一冊です。

この本を読むことで、今の自分のビジョンのスケールがいかに小さかったかに気づかされました。そして、たとえ壮大すぎると思える夢でも、それを真剣に追い求める姿は、人の心を動かすのだということも。

下巻では、ソフトバンクの躍進、アリババやARMへの投資、そしてWeWork問題など、より激動の物語が展開されることでしょう。ですが、上巻を読んだ今、すでに孫正義という人間の核を知ることができた気がしています。

ビジネスパーソンだけでなく、何かに挑戦したいと願うすべての人に、本書はきっと大きなヒントを与えてくれるはずです。

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