孫正義は“世界の未来”をどう見ていたのか——『300年王国への野望(下)』を読んで考えたこと
1. はじめに
前巻『300年王国への野望(上)』を読んで、孫正義という人物の「原点」に触れた私にとって、下巻はその“未来編”とも言える位置づけでした。
ソフトバンクという企業がなぜあれほどまでに急成長し、世界的な影響力を持つに至ったのか。その裏には、やはり“狂気”とも言えるビジョンと実行力がありました。
この『下巻』では、Yahoo! BBやアリババ投資、ボーダフォン買収、そして世界最大級の投資ファンド「ビジョン・ファンド」の立ち上げ、さらにはWeWork問題など、波乱に満ちた孫正義の“挑戦の連続”が描かれています。
読み終えた今、私はこう思います。
「この人は、本気で世界を変えようとしている」
それも、10年後でも、50年後でもなく、“300年先”の世界を見据えて。
2. 本書の概要
『300年王国への野望(下)』では、1990年代後半〜2020年代までのソフトバンクと孫正義の激動の軌跡が綴られています。特に注目すべきなのは、以下の出来事です:
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Yahoo! BBによる日本のインターネット革命
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アリババへの200億円の先行投資と、その驚異的なリターン
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ボーダフォン買収を通じた通信事業への本格参入
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ARM買収とAI・半導体戦略
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10兆円規模の「ビジョン・ファンド」設立
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WeWorkへの巨額投資とその破綻リスク
こうしたストーリーの中で描かれる孫正義の姿は、成功と失敗を繰り返しながらも、常に「未来をどうつくるか?」という問いに向き合い続ける、極めて哲学的なリーダーです。
また、著者・杉本貴司氏の筆致は冷静でありながらも、孫の中にある“人間らしさ”にもフォーカスしており、単なる成功譚ではないリアルな評伝に仕上がっています。
3. 印象に残った挑戦と思想
● アリババへの投資——“1分間で決めた200億円”
中国のEC企業「アリババ」への初期投資(約200億円)は、世界でも語り継がれる成功事例の一つです。ジャック・マーとわずか5分の面談をした後、「出資する」と即決した孫の判断力と直感には驚きを超えて、もはや呆れるほど。
しかし、その裏には「時代の本質をつかむ感覚」があります。孫は「インターネットが情報の流通を変え、経済の仕組みを変える」と早い段階で確信しており、アリババがその中心になると信じて疑わなかったのです。
結果、この投資は1兆円以上のリターンをもたらし、ソフトバンクの資本基盤を一気に強化することになりました。
● ボーダフォン買収と“逆風への突入”
2006年、ソフトバンクは1兆7500億円を投じて、英ボーダフォンの日本法人を買収しました。莫大な借金を抱えながらの挑戦は、世間から「無謀」と言われました。しかし、孫はこの買収によって「情報インフラ」を手に入れ、情報革命の土台を築こうとしたのです。
このタイミングでiPhoneとの独占契約を勝ち取ったことは、ソフトバンクにとって革命的でした。Appleのスティーブ・ジョブズとの交渉も、孫の粘りとビジョンがあったからこそ実現したものです。
情報革命は、回線を支配する者によって加速される——そんな戦略的視点が、ここにあります。
● ビジョン・ファンドと“世界のOSをつくる”という構想
2017年、ソフトバンクは10兆円を超える規模の投資ファンド「ビジョン・ファンド」を立ち上げました。この規模は、当時としては世界最大。しかも、投資先はAI、ロボティクス、バイオ、モビリティなど、まさに次世代産業ばかり。
孫の構想は、「産業のOS」を抑えること。これは単に儲かる投資を狙ったものではなく、「世界の構造を変える根本技術」に賭ける戦略でした。
もちろん、その中でWeWorkのような“痛み”も経験します。評価額の暴落、経営混乱、ソフトバンクの損失——それでも孫は「失敗を恐れていたら未来は変えられない」と語ります。
4. 孫正義という“思想家”の本質
下巻を読んで最も強く感じたのは、孫正義は単なる経営者でも投資家でもないということです。
彼は、**未来の社会構造を構想し、それを実現しようとする“思想家”**です。
たとえば、孫が繰り返し語る「シンギュラリティ(技術的特異点)」や「汎用人工知能(AGI)」の話。これはもはやビジネスの範疇を超え、人類の未来をどう導くかという哲学的問いに近いものです。
そして彼は、「その未来に日本が関与できるかどうか」が大きな岐路にあると考えています。
だからこそ、ソフトバンクは投資を通じて“未来の設計者たち”と関係を築き、日本という国に少しでも希望を残そうとしているのかもしれません。
5. 読後の感想と気づき
『300年王国への野望(下)』は、読むほどに問いを突きつけてくる本です。
「あなたは何のために仕事をしているのか?」
「10年後、あなたのやっていることに意味はあるのか?」
「子や孫の世代に何を残せるか?」
私たちはつい、短期的な目標や目先の利益に囚われがちですが、孫正義のスケールに触れることで、「今すぐには答えが出なくても、信じて進める未来」を持つことの大切さを再確認しました。
また、挑戦には必ずリスクがついてくる。しかし、リスクをとってもなお挑み続ける姿勢は、失敗すらも“物語”に変えるのだということも学びました。
6. まとめ
『300年王国への野望(下)』は、まさに“現代のリアル冒険譚”です。
ビジネス書でありながら、哲学書であり、そして未来社会の設計図でもある——そんな一冊。
上巻と合わせて読むことで、孫正義という人物が単なる「日本の起業家」ではなく、“文明の転換期”における思想的リーダーであることが、より鮮明に浮かび上がります。
読み終えた後、あなたもきっと何かしらの「ビジョン」を思い描いているはずです。
たとえそれが小さな一歩でも、それが未来をつくる起点になる——
この本は、そう信じさせてくれる力を持っています。
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